箏は13絃のツィター系の楽器で、長さ約190センチ、幅25センチである。
図 1
箏はA-430Hzで調絃される。絃は低いほうから番号がついている(演奏者に遠い方が第一絃、近い方が第十三絃)。
調絃は、可動式の柱(じ)を移動することによって行う。絃は、右手の親指、食指、中指にはめた義爪で弾く。
雅楽の箏の爪は、俗箏の生田流、山田流と異なり、かなり小さな竹片を革の輪に固定したものである。左手で、絃を押したり引いたりして音高を変える技法は平安時代には使われたが、現在は失われている。
図 2
図 3
図 3は箏の伝統的な7種類の調絃である。盤渉には呂と律の二種類の調絃があり、前者は第六と十一絃をG#に、後者はAに調律する。両絃は一オクターヴになるように調絃する。
箏の音は琵琶より響くが、三つの点を明らかにしなければならない。
図 4
図 5
中指(青)と親指(赤)でD4をff(フォルテッシモ)で弾いた時スペクトラである。親指より中指で弾いた時のほうが豊かな音質であることを示している。
図 6
箏には、拍節的なパタンと非拍節的なパタンがある。
拍節的パタンの大部分は2小節にわたっている。「閑掻(しずがき)」と「早掻(はやがき)」という基本パタンがある(例は壱越調(ミクソリディアン)のもの)。
「閑掻」は第一小節の第二拍目から始まる。
「早掻」は第一小節の第一拍目から始まる。
閑掻 | 早掻 |
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1 = 右手親指、2 = 右手食指、3 = 右手中指 | |
例 1
これらのパタンは、どの調子のどの音高上でも行うことができ、指遣いと絃の順番は同じである。しかし、個々の調子の調絃によって、同じパタンでも異なる音程のパタンが出来る。例2は例1を違う絃の位置で行った例である。
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位置を変えた閑掻 | 位置を変えた早掻 |
例 2
これらの基本パタンを装飾するためにさまざまな技法がある。その中に「小爪」「サハル」「連」などの、細かい装飾音がある。
閑掻の装飾的な音(小さい音符の部分) |
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例 3
小爪のある閑掻 | 小爪のある早掻 |
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例 4
「サハル」のある「閑掻」 |
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双調〈酒胡子〉 |
例 5
「連」のある「早掻」 |
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例 6
結ぶ手(返し爪が最初の小節で使われる) |
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平調〈陪臚〉からの例 |
例 7
例8は〈越天楽〉のセクションB とCの基本旋律とリズムである。箏がいかに多様なパタンで旋律を彩っているかを示すためのものである。フレーズ構造は、四拍一小節で四小節から成る。各セクションは2フレーズから成る。平調(Eエオリア)の楽曲で、基本旋律はE, B, Aに集中している。この3音は、日本の旋法システムの主要な4つの音のうちの3つである。(理論/音高の項目参照)
例8は、2小節にわたる箏の基本モティーフで、閑掻+小爪である。これは旋律の音を重複させるために使われる。第一小節の箏のパタンで現れた旋律音が小節の第二拍目に現れる。箏パタンの第二小節目の音高はリズム的なフレーズで、旋律を重複する(第6、12小節)。あるいは、それ予感させたり(第2小節)、続いたりする(第14小節)。
第四小節では、Eという旋律の音が、箏のDの音によって支えられているかを示している。このセクションの途中の衝突は、E音の終止カデンツの感覚が強くなりすぎないためのものではないかと推測する。というのも、フレーズがもう一つあって、セクションが完成するからである。
伶楽舎による演奏
例 8
雅楽の非拍節的部分は、だいたいの曲では、音取とコーダ(楽曲の終止部)に含まれる。音取は管絃の前に奏される短い、非拍節的な曲である。笙の音高に他の楽器が合っているかを確認する。箏はここだけで用いられる二つのパタンがある。
菅掻:このパタンはコーダと太食調の音取に出てくる。旋律線はその調子のさまざまな音高に移して演奏される。さまざまなリズムがあるが、同じ長さの4つの音で構成されるものがある。
菅掻 |
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例 9
摘む:音取だけで用いられるパタン。さらに、第五絃と第七絃の音程が五度もしくは一度(同度)の調子だけに用いられる。したがって、表平調、太食調、盤渉調、水調、黄鐘調の音取だけに使われる。第五絃と第七絃が親指と中指で、龍角からやや離れた位置をつまむように弾くため、柔らかい音がする。「摘む」の機能はおそらく音取の調絃を助けるためのものであろう。というのも、箏は絃楽器の中でもっとも響く楽器であり、このパタンは最も重要な二つの音、すなわち主音と五度上の音を強調するからである。
黄鐘調の「摘む」 |
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例 10
「摘む」はつねに非拍節的な旋律、和音の一部である。例10は箏の黄鐘調音取のリズムと旋律である。
例 11