篳篥

概要

竹製の7孔、ダブルリード楽器。約18センチの長さ。上から三つの孔は左手、残りの四つは右手で押さえる。背面には、孔が二つあり、それぞれの親指で押さえる。

篳篥の前部
篳篥の裏

図 1

篳篥の蘆舌
中村仁美 篳篥の吹口

図 2

リードは葦でできており、楽器本体の頭部に差し込まれ、藤樺製の輪をつぶしたものをはめて固定する。リードは比較的大きく、音高を容易に変えるのに役立つ。なだらかな音高変化と、同じ音を異なる指使いで出すことにより得られる音質の多様性が、この楽器の様式と、音の美しさの特徴である。

調律

A-430Hzで調律する。実音は楽譜の1オクフーヴ上。

音域と指遣い

普通の息づかいで、指の開閉で出すことができる音高は図 3では全音で示した。黒で示した音高は、口のリードのポジションで作られるもの。例えば、図 3の第二段目の音高は、リードを完全に口に深くくわえた時に出る音程である。一方、リードを浅くくわえると、音を低くすることができるが、これは唇の圧力によっても変えることができる。唇の緊張を弱めると長二度音を低くでき、(強めると)長六度上まで高くすることができる。

篳篥の音域と指遣いの楽譜

図 3

篳篥の音色は、すべての音域にわたって、非常に豊かである。図 4は最低音から最高音までのスペクトラムである。それぞれF4とA5(楽譜ではF3とA4)。青で示したF4のスペクトラムは55th部分音まで、A5のスペクトラムは、25th部分音までのエネルギーを示している。部分音の振動数は21,500ヘルツで、人間の可聴範囲を超えている。人間の可聴範囲は、20-20,000ヘルツである。

篳篥のスペクトラ ff F4 (青) とA5 (赤)

図 4

篳篥の音はおどろくほど豊かであるが、二つだけ弱い振動数域がある。一つはC#8 and F8 (4343 - 5309Hz)で、もう一つはE10 – G10 (10135 – 12066 Hz)である。図 5の黒い矢印の9 -11部分音と、赤い矢印の21-25部分音(B4, 482.65ヘルツ)に対応する。

非常に豊な篳篥のスペクトラムの中の二つの弱い周波数域

図 5

伝統的演奏慣習

  • アーティキュレーション:伝統的に、日本の楽器ではタンギングは使われない。その代わり、フレーズは息づかいによってコントロールされ、特定の音高は、指孔をたたくことによってアクセントがつけられる。旋律の始まりの音は、下からのポルタメントで入るのが典型である。
  • 「押す」:いったん音量を下げて、次の強拍で強く吹く技法。アタックはタンギングではなく、息づかいで行われる。
  • 「たたく」:同じ音高を延ばしながら、一つとなりの上の音、または下の音を素早く挿入する装飾的技法。二つの音高の指遣いの変化は、ふつう、ひとつの指孔を素早く閉じ、再開することを含む。つまり、閉じる孔を叩くことによって、その音にアクセントをつけるのである。この技法は、低いA4からA5(楽譜ではA3からA4)でできる。
押す たたく

例 1

  • 「まわす」:この旋律の動きは、二つの指孔にわたる指遣いの変化に関わるものである。指孔を徐々に上隣の音に向けてズラし開けて行くことによって音高を上げ、素早く、下隣の指孔まで、二つ閉じる。それによって、最後の音にアクセントをつける。篳篥では、口の中のリードの位置を動かすことによっても、これと同じ効果を作ることができる。その場合、最後の音にアクセントは付かない。
指遣いによる「マワス」 蘆舌の操作による「マワス」

例 2

  • 塩梅」:演奏者の口に浅くくわえたリードは、完全四度まで音高を変化させることができる。しばしば、持続する音に装飾を加える時に使われる技法。
塩梅

例 3

篳篥の音はおどろくほど豊かであるが、二つだけ弱い振動数域がある。一つはC#8 and F8 (4343 - 5309Hz)で、もう一つはE10 – G10 (10135 – 12066 Hz)である。図 5の黒い矢印の9 -11部分音と、赤い矢印の21-25部分音(B4, 482.65ヘルツ)に対応する。

〈越天楽〉セクションBとCの基本旋律、篳篥のアーティキュレーション

例 4

新しい演奏慣習

  • アーティキュレーション:スタッカートを含むタンギングが使用可能。ただし、シングル・タンギングに限られる。
  • トレモロ:篳篥は伝統的にはトレモロは用いないが、新作で用いられる。使用の原則として、曖昧な指遣いを含まない、二つの音高の間で行われる。

例 5 のように、グリッサンドとトリルは、それぞれ別に、あるいは一緒に使われる。

グリサンドとトリル

例 5

  • ビズビリャンド:音色を少し変える時に用いられる効果。これは、篳篥では伝統的な技法。異なる指遣いで同じ音高を作ることによって、音のスライドと音色変化が生じる。
  • 唱歌と演奏:演奏者の歌う音域を考慮することは重要である。例 5の四角で示した音は、唱歌の音高を示す。
歌と演奏

例 6