管絃の音色と形式の相関関係に関する概説

ここでは、箇条書きスタイルで、形式的な要素について、音色的な特徴を交えながら言及する。

序・破・急

序、破、急は日本の芸術全般で、重要かつ偏在する形式構造の原理である。しばしば、形式のレベルおけるすべての音楽の展開を表す。演奏会のプログラムの構成、一曲の形式、楽章、音楽フレーズ、場合によっては一つの音の展開を支配する。おおざっぱには、「序」はゆっくりした導入部、「破」は少し速い部分、そして「急」は速い終結部である。伝統的には、常に非常に少しずつ行われる、時にはほとんど感じられないほどの加速として理解されている。最も上の形式のレベルでは、異なる楽章は、はっきりと三つのうちのどれかとして区別されるが、下位レベルではこの原理は曖昧で、たいていの場合、徐々に行われるテンポの変化と、形式が比較的とらえどころが無い導入部から、よりはっきりした展開部を経て、終局へ進むことを意味する。

楽曲は、しばしば以下のような四つにグループ分けされる。

  • --音取:フリーリズムの楽曲。各楽器の主奏者と鞨鼓のみが演奏する。その役割は調子の雰囲気を作ることにある。演奏に加わる楽器の順番は:笙、篳篥、龍笛、鞨鼓、琵琶、箏である。
  • 「序」:この楽章もまたフリーリズムだが、音取と異なるのは、すべての楽器が加わる点である。また、楽曲も長く、導入というよりは、楽章である。
  • 「破」:普通は「延拍子」(1小節8拍)の曲がこれである。「理論——リズム」の項で説明したように、「破」には、早拍子に比べ、(同じ数の拍の範囲内では)太鼓の雄桴が半分しかない。雄桴は、何にも増して、三つの打楽器が同時に打たれるポイントであり、音色変化の指標となるポイントである。この打楽器が同期するポイントが少ない、ということは、延拍子曲では、音色変化のリズムがゆっくりということである。
  • 「急」:普通は「早拍子」(1小節4拍)の曲がこれである。「理論——リズム」の項で説明したように、延拍子に比べ(同じ数の拍の範囲内では)二倍、太鼓の雄桴がある。雄桴は、何にも増して、三つの打楽器が同時に打たれるポイントであり、音色変化の指標となるポイントである。この打楽器が同期するポイントが多い、ということは、早拍子曲では、音色変化のリズムが速いということである。

2.「破」と「急」の音色構造

  • 音頭:両方とも「音頭」と呼ばれる龍笛主奏者のソロのフレーズで始まり、打楽器が加わる
  • 付所:残りの二つの木管楽器(篳篥と笙)が加わる所であり、太鼓が強く打たれるところは「付所」と呼ばれる。このあと、二小節ごとに第一琵琶、第一箏、第二琵琶、第二箏の順で加わる。
  • 止手:止手とは洋楽のコーダに当たるもので、主奏者だけが、フリーリズムのゆっくりしたテンポで演奏する。抜ける順番は、管楽器、打楽器、琵琶、そして、最後に箏である。
  • 加え:「加える」という意味。楽曲の後半で、打楽器のリズムパターンに、打音が加えられる。たとえば、4小節の打楽器パターンは、2小節単位になり、打楽器はたくさん打たれる。加拍子の始まりは、明らかに旋律の変化を強調する。例1と例2は、最も典型的な四小節一サイクルで、一小節4拍の「早四拍子」のリズムパターンと、その加拍子である。
早四拍子

例 1

加え

例 2

形式のデザイン

  • 残楽 楽曲を3回繰り返す間に楽器を減らしていく演奏形式。
    • 1回目:すべての楽器、
    • 2回目:管楽器と絃楽器だけ。
    • 3回目:第一篳篥と第一琵琶と第一箏。
  • 重頭: 「頭を重ねる」という意味で、冒頭のフレーズに戻り、すでに出てきたフレーズを繰り返すことを指示する経過的なフレーズ。たとえば、AABBCCAABBと演奏される「越殿楽」のフレーズC。
  • 半帖:中間地点。例えば、一曲の中間地点。この構造を有する楽曲は、しばしば4つの部分(AB| CB)に分割できる。Bが前半の第一部と第二部の中間地点だとすると、Cは、曲全体の中間地点。
  • 換頭
    • 冒頭に戻る時の追加のフレーズ。
    • |: …………………….……………終わり|| 換頭…….. :||
  • 「返付」
    • は文字通り「返る」場所のこと。楽曲をくり返す場合、冒頭に戻らない時は換頭を使い、もどる場所を示す。
    • ||……..…||: 「返付」………………………………….. :||

分類

「管絃」と「舞楽」からなる唐楽は、次のような二つのカテゴリーに分けられる。古楽:「古い音楽」を意味し、全体の三分の一、新楽は「新しい音楽」を意味し、三分の二の楽曲はこれである。

この他の分類は、曲の長さによっている。

  • <大曲:大規模な曲。6章くらいからなるが、ほとんど演奏されたことがない。最後の楽書だけが主音で終止し、他の楽章は音階の第三音で終わる。さらに、洗練された「止手」というコーダも最後の楽章だけで演奏され、その他の楽章は「吹き流し」という、最後の音をしっかり吹き延ばす技法によって終わる。
  • 中曲:1-3楽章から成る、中くらいの長さの曲。旋律は、四拍子曲では第三小節から、八拍子曲では第五小節から始まる。
  • 小曲:比較的短い楽曲。
分類

図 1